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2023年7月21日金曜日

華麗なるインド⑦

第7回 「三燈舎(SANTOSHAM)」 ― 南インドの懐石料理

4年ほど前、講演会を終えたあとに、教え子数人と来て食べたときの味が衝撃的だった。一品一品の料理はたしかにインドの味なのだが、私の知っているインド料理ではない。それでいて絶品なのである。この連載で是非取り上げたいと思っていたが、私の思っているインド料理とどう違うのかを確かめるまでに時間が経ってしまった。その後、数回立ち寄ったが、いつもお客さんが並んでいて断念した。私は並ぶのが大嫌いなので、今までも美味しいものを食べそこなって来たと思うが、性分なのでしかたがない。それが最近ラッキーなことに、午後にいったん閉じる前にカミさんと来て、スルリと入れた。

ランチは3種類の定食から選ぶようになっている。Aセット(¥800)は本日のカレー1種に、ライスと、ドーサあるいはバトゥーラー(揚げパン)というシンプルなものだが、ライスはおかわり無料とのことなので、軽くランチを取りたいときにはこれはお得である。Bセット(¥1,000)は本日のカレーが3種に増え、Cセット(\1,200)は3種にさらにサンバルとラッサムとパーパルが付く。ということで、迷うことなくCセットにし、一つがドーサ付き、もう一つがバトゥーラー付きを注文した。

本日の日替わりカレーは以下の3種である。

辛口:ビーフキーマといろいろ野菜

中辛:ケーララの卵カレー

マイルド:茄子とオクラ

運ばれて来た料理を口にするや、私がインド料理らしからぬと思った理由の一端がわかった。和食の料亭で供される懐石料理の持つ凛としたたたずまいが感じられるのである。辛口のキーマが中辛の卵カレーとともにしっかりと舌を刺激し、茄子とオクラのまったりとした味がそれを和らげてくれる。そのあいだに味わうサンバルとラッサムは、インド古典音楽で基底音を奏でるターンプーラーのように、常に南インド料理の原点の味を持続させてくれる。

茶会の席で出される本来の懐石料理は一汁三菜の簡素な料理だそうだが、サンバルとラッサムを二汁に見立てれば、三燈舎のそれは二汁三菜の懐石と言えよう。「サントーシャ」とはサンスクリット語で「満足」を意味し、「サントーシャム」はそれの南インドでの表記である。客人をもてなす茶会の真髄が店の名前にも込められている。デザートのココナッツプリンのマンゴーソースあえと茶会なら濃茶にあたるマドラス・コーヒーも申し分なかった。

今回、Informationを書くためにホームページなどネットを検索したら、ミシュランガイド東京2023でビブグルマンに選出され、食べログでアジア・エスニック TOKYO 百名店 2022に選ばれたことを知った。また、テレビの人気番組・孤独のグルメのSeason8で「第9話 東京都千代田区御茶ノ水の南インドのカレー定食とガーリックチーズドーサ(海老カレーバナナの葉包み)」として放映されたそうである。4年前に訪れた時は、開店(2019年5月)したばかりだったと思うが、独自の日本的なインド料理(オーナーはどう思うか知らないが)を提供し続けたことが、多くの客の心をつかんだのだと思う。本格的なインド料理を作ろうとするシェフと、何とか日本人の口に会う味を出したいオーナーが、長い時間をかけて妥協のない味を作り上げてきたのだと思う。スタッフを含めた全員に敬意を表したい。

(宮本久義 記:2023年7月11日)

 

午後の休みに降りてきたRateeshさん。黄金の腕の持ち主。

ベテランシェフのThomasさんはインド帰省中とのこと。

 

上が3種類の本日のカレー。下がサンバルとラッサム。

ライスはバースマティー。右がバトゥーラー、上方が

パーパル。写真がうまくないので失礼。

 

コーヒーのネーミングは「マドラス・コーヒー」以外には

考えられない。器もカワイイ。

 

Information:

〒101-0052 千代田区神田小川町3-2古室ビル2階

予約・お問い合わせ:050-3697-2547(夜のみ予約可)

営業時間:11:00~15:30(L.O.15:00)、17:30~22:00(L.O.21:00)

定休日:月曜(その他臨時休業の場合あり、SNSにて告知)

支払方法:カード不可・電子マネー不可

ホームページ:https://santosham.tokyo/

 

宮本久義 略歴

1950年、東京浅草生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了後、1978年より7年間バナーラス・ヒンドゥー大学大学院哲学研究科博士課程に留学。1985年、Ph.D.(哲学博士)取得。2005年~2015年、東洋大学文学部インド哲学科教授。現在、東洋大学大学院客員教授。
専門分野は、インド思想史、ヒンドゥー宗教思想



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